最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)5032号 決定 1953年6月12日
本籍並びに住居
愛知県南設楽郡鳳来寺村大字塩瀬字知幸部三二番地
農業
今泉博徳
明治四〇年四月一八日生
本籍並びに住居
同県同郡同村大字布里字堂下五七番地の二
山人夫
筒井彌作
明治三七年四月一五日生
右非現住建物等放火未遂被告事件について昭和二六年一〇月三〇日名古屋高等裁判所の言渡した判決に対し被告人今泉博徳本人及び被告人筒井彌作の原審弁護人富田博からそれぞれ上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人今泉博徳の弁護人上村千一郎の上告趣意について。
右第一点は、事実誤認の主張であつて、刑訴四〇五条所定の適法な上告理由に当らないばかりでなく、第一審判決挙示の証拠、就中受命裁判官作成の証人土井義久、同森恵吉に対する各尋問調書(記録一五六丁、一七四丁)に徴すれば、本件放火の目的物が、犯行当時賃貸中のものであり且つ保険に付されてあつたことは明らかである。同第二点は単なる量刑不当の主張であるから、適法な上告理由に当らない。
被告人筒井彌作の弁護人富田博の上告趣意について。
所論刑法一一五条の規定する現に人の住居に使用せず又は人の現存しない建造物に対する放火罪がその未遂をも罰する法意であることは、放火の目的物に、同条所定の事実が存するときは、たとえそれが自己の所有に係る場合と雖も他人の物を焼燬した場合と同様に取扱われ刑法一〇九条一項の犯罪を構成する旨を定めていること、そして同法一〇九条一項の場合は同法一一二条によりその未遂罪をも罰していることによつて明らかであるといわねばならない。それ故所論違憲の主張はその前提である刑法一一五条の解釈を誤つたもので採るを得ない。
なお記録を調べても、本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて同四一四条三八六条一項三号により主文のとおり決定する。
この決定は、裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)